研究報告


CRAYONプロジェクトのきっかけは、小中学校の子どもたちへの教育について考えるIN-Childプロジェクト。小中学校の子どもたちの様々な事例をみるつれて、その背景には乳幼児教育の影響があるのではないかと思い始めた頃、質の高い保育の実現に情熱を捧げる岡田園長(※)と出会い、2017年に研究がスタートしました。

 

そこから、乳幼児教育において専門家が使うツールがないという大きな課題を解決するため、研究を積み重ねること約1年半をかけて2019年に『CRAYON BOOK』を開発しました。ツール開発後は、主にツールを用いた教育実践の効果検証研究を続けています。

 

※ 岡田園長の取り組みについては、「導入園 >紬木保育園」をご覧ください。

開発論文

CRAYON BOOK』の開発と評価尺度としての科学的検証に関する論文です。

研究者が理念と哲学を持って仮説を立てながら、たくさんのデータで検証を行うことで『CRAYON BOOK』が開発されました。

子どもの概念形成と才能発掘の実態把握を行うための構造化された評価ツールの開発 ―3~5歳児を対象としたCRAYON Bookの領域と項目の検討―

韓 昌完

Journal of Inclusive Education, 2019, 6, 27-40. doi: 10.20744/incleedu.6.0_27

J-STAGE

子どもの概念形成と才能発掘の実態把握を行うための構造化された評価ツール(Child Rearing Assist for Your Needs Book: CRAYON Book)の内容的妥当性の検証

韓 昌完, 小原 愛子, 岡田 直美

Journal of Inclusive Education, 2020, 9, 35-51. doi: 10.20744/incleedu.9.0_35

J-STAGE


基礎研究

CRAYON BOOK』を開発するに至るまでの基礎的な研究です。

Constructs of IN-Child Record for Early Childhood(ICR-EC)

Naomi OKADA,Aiko KOHARA & Changwan HAN

3rd Asian Research Conference of Human Services Innovation ABSTRACT JOURNAL, 2018.02,  15.

Conference

A Study on Constructs of “CRAYON Record (Ver.3-5 Years Old)”

Changwan HAN,Aiko KOHARA,Haruna TERUYA & Naomi OKADA

2018 Asian Society of Human Servies Congress in Kyoto ABSTRACT JOURNAL, 2018.07,  20.

Conference

乳幼児保育・教育におけるカリキュラム評価に関する研究 ―保育所保育指針の分析を中心に―

小原 愛子, 荒居 日和, 岡田 直美

Journal of Inclusive Education, 2019, 6, 1-9. doi: 10.20744/incleedu.6.0_1

J-STAGE


実践研究

開発された『CRAYON BOOK』を用いてデータや事例を収集することで、現場の実践にすぐ活かせる研究を行なっています。

CRAYON BOOKを用いた乳幼児教育の特徴分析 ―1~2歳ver.の縦断データを中心に―

宇多川 清美, 小原 愛子

教育経済学研究, 2020, 1, 62-71. doi: 10.50946/roee.1.0_62

J-STAGE

乳幼児を対象にしたカウントに関する教育実践  ―CRAYON BOOKの数概念の観点に基づいて―

岡田 直美, 磯部 一恵, 太田 麻美子

Journal of Inclusive Education, 2021, 10, 70-80. doi: 10.20744/incleedu.10.0_70

J-STAGE

乳幼児期における環境が概念形成に与える影響分析 ―CRAYON BOOKを用いたデータを中心に―

宇多川 清美, 小原 愛子

Journal of Inclusive Education, 2022, 11, 110-120. doi: 10.20744/incleedu.11.0_110

J-STAGE


乳幼児を対象にした図形の理解に関する教育実践 ―CRAYON BOOKの数概念との関連性―

岡田 直美, 磯部 一恵, 太田 麻美子

Journal of Inclusive Education, 2022, 11, 141-153. doi: 10.20744/incleedu.11.0_141

J-STAGE

The Study of the Relationship and Influence of Environment and Concept Formation in 0-year-old Children; Focusing on Data from Nursery Schools Operated by Japanese 1 Companies

Aiko KOHARA, Kiyomi UTAGAWA, Mamiko OTA & Changwan HAN

12th Asian Society of Human Servies Congress in Seoul 2023 PROCEEDING, 29-30.

Conference

Effectiveness Verification of a Number Concept Program for Infants

Mamiko OTA, Naomi OKADA & Aiko KOHARA

12th Asian Society of Human Servies Congress in Seoul 2023 PROCEEDING, 50.

Conference


CRAYON BOOKに基づいた1-2歳時の言語概念および言語的表現の発達過程に関する分析調査

岡田 崇 , 岡田 直美 , 太田 麻美子

Journal of Inclusive Education, 2023, 12, 16-30. doi:10.20744/incleedu.12.0_16

 

J-STAGE

人的・物的環境整備が1~2歳児の概念形成に与える影響要因の検討 ―CRAYON BOOKのデータ分析と保育士へのインタビュー調査の結果を中心に
宇多川 清美, 小原 愛子

Journal of Inclusive Education, 2023, 12, 62-79. doi:10.20744/incleedu.12.0_62

 

J-STAGE

乳幼児を対象にした数量の理解に関する教育実践 ―CRAYON BOOKの数概念の観点に基づいて

岡田 直美, 小原 愛子, 太田 麻美子

Journal of Inclusive Education, 2023, 12, 105-117. doi:10.20744/incleedu.12.0_105

J-STAGE


その他の関連研究

研究プロジェクト全体を見れば、『CRAYON BOOK』を用いた実践研究だけではありません。

乳幼児期の概念形成や自己表現などに関する理論的研究や、乳幼児教育を経済学的にみたときの効果などに関する社会的研究も行なっています。

乳幼児教育における教育成果及び経済的効果に関する研究の現状と課題

太田 麻美子, 照屋 晴菜, 鳩間 千華

Journal of Inclusive Education, 2020, 9, 66-79. doi: 10.20744/incleedu.9.0_79

J-STAGE

乳幼児期における空間概念の実態把握ツール開発のための構成概念の検討

小原 愛子, 韓 昌完

Journal of Inclusive Education, 2021, 10, 60-69. doi: 10.20744/incleedu.10.0_60

J-STAGE

Research Trends of Spatial Concept for Infant's; Based on Comparative Analysis of CRAYON BOOK

Aiko KOHARA & Changwan HAN

2021 Asian Society of Human Servies Congress in Shimonoseki ABSTRACT JOURNAL, 10.

Conference


乳幼児教育における評価指標の現状と課題 ー発達評価と環境評価の観点に基づいた分析を中心にー

太田 麻美子, 三輪 正太郎, 小原 愛子, 岡田 直美

教育経済学研究, 2022, 2, 27-41. doi: 10.50946/roee.2.0_27

▼J-STAGE

日本における社会情動的スキルの向上に関する乳幼児への教育的関わりの特徴分析 ーCRAYON BOOK との項目対応分析に基づいてー

矢野 桜子, 金 珉智, 小原 愛子

教育経済学研究, 2023, 4, 51-65. doi: 10.50946/roee.4.0_51

▼J-STAGE

日本の乳幼児教育における触覚・味覚・嗅覚を育てる保育実践の現状と課題

金城 紅杏, 趙 彩尹

教育経済学研究, 2023, 5, 23-38. doi: 10.50946/roee.5.0_23

▼J-STAGE



研究代表者

HAN ChangWan (ハン チャンワン)

韓 昌完 教授

下関市立大学 学長

CRAYONプロジェクト代表

 私は、教育分野の研究者として乳幼児教育へと関心を持つ以前に、小中学校の子どもたちや高校生、成人への教育を対象にしていました。そんな中、小中学校に通う子どもたちが見せる教育的なニーズに対応するためのIN-Childプロジェクトで出会った数学がとても苦手な一人の中学生が、私の目を乳幼児教育へと向けさせる大きなきっかけになりました。その子は、中学数学にまったく追いつけずにテストは0点ばかり。どこがこの子の躓きなのか、学年を一つひとつ追いながら小学校低学年の算数まで丁寧に遡りました。しかし、簡単な足し算すらも理解していない様子であったことが、とても印象に残っています。この瞬間、「あぁ、そもそも『数』とは何かという、算数の基礎となる概念形成が必要なのか。」と、私が次にやるべきことが見えました。“概念とは何か”、“概念はどのように形成されるのか”、“概念形成が将来どのように役立つのか”、“表現として見られることで才能開花に繋がるのではないか”――これらは、乳幼児期の頃から始まりその後の成長へと繋がるのではないか。そして、ついに私の初めての乳幼児教育に関する研究として、CRAYONプロジェクトがはじまりました。

 

 人間は一人ひとり違う特徴があるのが当たり前で、私は「100人いたら100通り、1,000人いたら1,000通りの成長がある」という信念をずっと変わらず持っています。だからといって、常にマンツーマンで個別の教育が必要かといえばそうではありません。集団の中でしか生きられない人間は、多少なりとも必ず他者や環境との関わりながらそれぞれの人生を歩んでいくでしょう。そのため、乳幼児期から「集団の中にいる子ども」としての特徴を、個人の強みや伸びしろだけでなく、その子の周りの環境やその子への関わり方との関係性を意識することが重要だと考えています。また、集団の中で一人ひとりに合わせて対応するということは、大人がお手本となる姿を周りの子どもたちに見せることにもなります。目の前にいる子どもは、大人のちょっとした関わり方ひとつで素直に変わりますし、周りにいる子どもたちも大人と子どもの関わりから多くの影響を受けて変わっていくでしょう。

  • 子どもの強みを活かして、才能を開花させるとはどういうことか?
  • 子どもの伸びしろを知って、そこを伸ばすかあるいは代わりになる力を伸ばすか?
  • 子どもの好き勝手にさせることと、子どもが自分で理解し、納得して動くことの違いは何か?
  • 子どもの多様性を尊重するとはどういうことか?

  子どもをもっとよく観察してみよう、屋内の装飾を見直してみよう、声かけの仕方を変えてみようなど、大人が具体的に動くための道具として開発した『CRAYON BOOK』が、誰かの子育てを少しでも楽しくすることを願っています。